2010年12月13日

T戦線で行こう


 「実はブログを読んだ鮫間さんから記事の間違いの指摘がありまして」

 あ、そう?ぽたーじゅ君。この鮫形、誤りを正すにやぶさかではないよ。

 「宝くじで3億円当てるには、の記事で、1万面体ダイスを5000回振ったときに少なくとも1が1回出る確率が違うそうです」

 そうだっけかな。会計士様のご指摘だからね。もう1回見てみようか。

 うーむ。これは「1から10000まで書いた紙」を5000回順に引いていって、少なくとも「1」を1回引く確率だね。全体の母数が段々小さくなる場合。いわゆる「閉じた世界」。計算式を示して一緒に考えようか。

 1-(9999/1000)×(9998/9999)×・・・(5001/5002)×(5000/5001)

 これは約分できるからすぐ0.5と分かるね

 ダイスのようにオープンな場合は計算し直さないといけないね。 1回の宝くじを買う場合は「閉じた世界」だけど、複数回にわたって宝くじを買う場合は「開いた世界」になる。

 1回の宝くじで5000枚買う場合と、5000回の宝くじを1枚ずつ買う場合の違いだね。計算式は

 1-((9999/10000)の5000乗)

 ウインドウズのアクセサリの電卓で計算すると、

 0.39348450437525512128834440681349

 39%ぐらいだね。

 「となると、その前の10回の例も違うんでは?」

 鋭いね。だいたい同じだけどね。

 「いちおうもう1回計算してください」

 1-((9/10)の5乗)だね。

 0.40951

 41%ぐらい。

 「要するに、宝くじで勝ち逃げできるのは4割に満たないということですか」

 そうそう。しかも、買う回数を増やすと少しづつ確率が悪くなっていくということね。多い回数でコツコツ勝負するより、少ない回数で大金勝負した方が、ちょっとだけ確率が高いということね。

 「では、今日もお便りを紹介します。ボードゲームに限定せず、鮫形さんが選ぶベスト・シミュレーションゲームは何ですか」

 ずばり「A列車で行こうシリーズ」だね。パソコンゲームは詳しくないけど、おそらくシミュレーションそのものを楽しめるという意味では一番だと思うよ。

 「そう言えば鮫形さんもときどきやってますね」

 パソコンをグレードアップしたときは必ずプレイするね。というか、A列車の最新版をスムーズにできるようなパソコンに買い換えている。私は鉄道とか普段は全然興味ないんだけど、このゲームだけは別だ。

 「何がすばらしいんでしょうか」

 勝利条件とゲームの楽しみ方が一致していないところ。正確には、シミュレーター機能だけで十分面白い点だ。以下、A列車を知らない人への詳細な説明はあしからず省略する。

 A列車にもいちおう勝利条件みたいなのはある。一定のお金を貯めて、一定の線路を延ばせば「おめでとう」とか表示される。でも、純粋にその勝利条件の達成を目指そうとすると、非常につまらないプレイになるよね。効率の良い環状線をつくって、営業効率の良い電車だけを走らせ、効率の良いビルを建てる。こんなコツはちょっとプレイすれば分かるので詳しく言わないけど。

 でも、そんな目先の利益だけを追った街は、まったく美しくないし、プレイも無味乾燥になる。路線や都市の計画をきっちり立てて、街にバランスよく公園なんかも配置して、ときには単線の赤字ローカル線みたいなのもつくったりするから面白い。つまり、ゲームの勝利条件なんか満たさなくても十分楽しめる。むしろ、それを目指すとつまらなくなる。

 ユーチューブとかで動画を検索してもらえば、A列車を使って、実際の駅周辺や、特定の路線を再現した街をつくった例が紹介されている。本当によくできてるなあと感心するのがいっぱいあるよ。列車の車窓からみたモードで町並みが過ぎる映像もアップされていて、これも一見の価値がある。

 A列車シリーズは、いずれもデザイナーは遊べる土台を提供しただけで、後はプレイヤーが創造力を発揮して楽しみ方を見つけていくものだ。おそらく、デザイナーが予期していなかった楽しみ方をしているプレイヤーも多いと思うよ。ウォーゲームで「なるようにしかならない」「ちょっとした裏技で破綻する」駄作とは対照的な名作といえる。

 「何かウォーゲームを楽しむヒントが隠されている感じですね」

 うん。なかなかいい勘をしているね。

 そこで、だ。独ソ戦をA列車並みの精密さで再現できるゲームを想像してみてよ。仮に「T戦線で行こう」と名前を付けてみようか。戦車や歩兵がちょこまか動くリアルタイムストラテジーゲームみたいなのを脳内に思い浮かべてよ。

 「なるほど。ロシアの大地をマップに思い浮かべればいいですね」

 そうそう。今はバルバロッサ作戦開始時だと想定してよ。ブーク川沿いにドイツ軍戦車を並べて、マップをスクロールするとモスクワのクレムリンの尖塔、雄大なドン河、コーカサスの草原まで見られる。ウォーゲーマーならイメージできるね。

 それで、初期配置をヒストリカルにして自動プレイモードにすると、勝手にドンパチ始めるよ。グデーリアンの装甲師団が戦線を突破し、ソ連軍を次々撃破していく。

 「あ、ミンスク、スモレンスクを抜いた後で、南方に転進しましたよ!」

 なかなかいいイメージだね。ヒトラー命令もヒストリカルモードにしてあるとそういう展開になる。つまり、プレイヤーがまったく手を加えなければ、ベルリン陥落までほぼ史実通りに展開するようになっているシミュレーターだと思ってくれ。

 「史実派の人はそれをずっと眺めているだけで楽しいと思うかも」

 そうだね。対人プレイなんかやらなくても楽しいかもね。なるようにしかならない展開の精密な動画を見たがっているプレイヤーは少なからずいるだろう。

 ゲーム派の人のためには、初期配置を自由化したり、ヒトラー命令を無効にしたりというオプション設定ができるようになっているわけだ。もちろん天候もランダムにするか、史実と同じにするか選べる。

 「そんなものがあれば絶対に欲しいなあ」

 かと言って、あんまり自由に設定できすぎると、一方的な展開になったり、ゲームとして知恵の絞りがいのない状況になる場合もあるだろう。

 賢明な読者諸兄はもうお気づきと思う。「T戦線で行こう」のような完全なシミュレーターはボードでは現実的につくれない。でも、切り取り方によってはボードでも十分再現できるし、面白いゲームをつくれることを。

 切り取り方は色々あるよね。スターリングラードのトラクター工場の争奪戦をやるなら、スコードリーダー程度の時間と空間の切り取り方になる。バルバロッサ作戦のゲームにしても、同じGDWのFire in the Eastと1941では、切り取ったマップの範囲はほぼ同じでも縮尺が違う。

 そしてヒトラーやスターリンの理不尽な命令をどう扱うかも重要なオプションだ。プレイヤーに自由度を与える方がいいのか、一定の制限を設けるべきか。

 つまり、こういう部分に「デザイナーがプレイヤーに何をさせたいのか」、「プレイヤーが何をしたいのか」という目的意識が生じる。というより、そういう概念がないと、デザイナーは世界を切り取れないし、プレイヤーも楽しめない。あるいはゲームに対する評価ができない。

 例えば、同じバルバロッサ作戦をテーマにしたゲームでも、ぽたーじゅ君はお手軽なゲームが好きだけど、私はちょっと歯ごたえがあるのをプレイしたい。そして自分がやりたいゲームの方を「面白い」と評価することが多い。

 ウォーゲームの評価について議論すると、「面白い」か「つまらない」の2択になってしまうけど、実は細かい切り取り方、プレイの嗜好みたいなところに踏み込まないと本当に深い話はできないんだよね。

 「なるほど。議論が深まらない理由は何ですかね」

 一番の理由は「言葉」がないからだと思うね。

 ワインをほめる言葉がいっぱいあるのは知ってるでしょ。ソムリエが「若い」とか「芳醇な」とか、私には分からないけど、香りや味について独特な表現をして、それが国際的にも通用している。「濡れた犬の毛のようだ」とか、まったく理解できないのもある。ビールのキレとコクなら分かるけどね。

 「ワインの味は僕も分からないんで、もっと別な例で説明できないですか」

 そうね。ラーメンで説明してみようか。これも単純化すると「うまい」と「まずい」しかない。でも、細かく好みを分析していくことはできるでしょ。

 具体的に言うと、私は「●花」が一番好きだけど、「●郎」や「●下●品」もまあまあ好きだ。スープの方向性は似ているとは言え、麺の固さが違う。だから私は「●下●品」にお付き合いするのはやぶさかでないけど、できれば「●花」に行きたい。

 戦術級やマルチプレイは、ラーメンで言えば私にとって「●蔵」や「●本」かな。面白い、あるいはうまいとは思う。しかし、難しいルールを覚えたり、仲間を集めてたりの努力をしてまでプレイしたいと思わない。ラーメンで言えば、長い行列に並んでまで食べる気にはなれない。

 「何か話が変な方向に行ってます・・・ちなみに鮫形さんにとって、コンピューターでないベスト・シミュレーションゲームは?」

 PGG。

 「愚問でした。長年一緒に暮らしながら・・・」

 話をまたちょっと戻すよ。私はラーメンの好みを説明するとき「こってり固め」「ネギ多目」「半熟より固ゆで玉子」とか言う。これでだいたいの人は味の好みを分かってくれる。

 じゃあPGGを説明するときはどうか。「オーバーラン」「強ZOC」「アントライドユニット」。これはシステムの説明ではあるけど、面白さを伝えたことにならない。ドイツ軍の装甲師団が平地をガンガン進撃する爽快感と、ソ連軍がその勢いを拠点防御で吸収して反撃に転じる面白さみたいなところを、もっと短い言葉で表現できないかと思うんだけど、なかなかうまくいかない。

 私は「ドライブ感」とか「泥沼感」とか言うことがあるけど、本当にPGGの魅力を伝えられているかは自信ないね。

 そもそも、今さらPGGなんか、と思う人も多いだろう。そりゃ古いゲームだよ。でもね、個人的にはもうちょっとファンがいていいんじゃないかと思う。ほかの多くのくだらないゲームをやるぐらいならね。

 「その流れで次の質問に。面白いゲームと駄目ゲームの見分け方は」

 これは直感だね。

 「それではちょっと読者が納得しかねるかと・・・」

 以前に書いた麻雀の必勝法に通じる話。パッとみて面白いかどうか分からなくては駄目なんだ。麻雀に強い人は相手と会った瞬間に力量が分かる。ゲームの達人はコンポーネントに触れた瞬間に面白さが分かる。

 サッカーのオシム監督は「歩いてくる牛の顔から、どういう尻尾をしているか分からないといけない」と言っていた。これはサッカー選手に指導するときのたとえ話で、相手を見て直感的に次のプレイを予測せよ、ということだ。

 つまり、愚ゲームかどうか直感で分からなければ愚ゲーマーだということだよ。

 「言い切りましたね」

 まあ、私の直感も全然当たらないけどね。期待して買ったゲームが駄作だったたびに精進が足らないなあと反省しているよ。でもね、いちいち愚ゲームだと騒ぐのは、それこそ愚の骨頂でね。愚ゲームを踏んだら黙って恥じ入ればいいんだよ。それがゲーマーの謙虚さであり、デザイナーに対する惻隠の情でもある。

*************

 ふう。何か腹減ったね。●花のラーメンを食べに行こうか。

 「僕は草食動物なんで・・・」

 太●麺のキャベツ大盛りを頼むから、君にも分けてあげるよ。

 「じゃあ、お供します。でも鮫形さんは本当にあの店が好きですね」

 ラーメンもウォーゲームも私はこってり固め派だからね。でも、民事再生法申請って・・・。ラーメンもゲームも、いいものはなかなか理解されないのかねえ。それとも私が時代遅れなのか。いずれにせよ、寂しい限りだね。
posted by 鮫形鐘一郎 at 23:37| (カテゴリなし) | 更新情報をチェックする

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