2012年05月18日

パクリ「ウォーゲーム小説」第1回(下)

 会場に行く前に、東新宿鮫は田村と落ち合い、台北のゲーマーの道翹(どうぎょう)なる人物を紹介された。東新宿鮫は北京語もたいしてしゃべれなかったが、道翹が日本語や英語をある程度使えるので、なんら会話に不自由はなかった。

 「よくお越しいただきました。東新宿鮫さんは日本でも活発にゲームをされている屈指のプレイヤーとお聞きしています」

 田村が大仰に伝えていたのか、お世辞なのかは分からなかったが、下にも置かぬ扱いをしてくれて、東新宿鮫は非常に気分がよくなった。

 もう昼近くになっていたので、3人でランチを食べてから会場に行くことにした。小籠包と青菜の炒め物とチャーハンがうまい店で、道翹が予約をしてくれていた。おそらく有名店であろう。

 国は違えどもウォーゲーマー同士ということで、すぐに打ち解けた。台湾でも米国製や日本製のゲームが結構プレイされていることを知り、驚いたり感心したりで話題は尽きなかった。

 食後にプーアル茶が出てきたころ、田村は所用で辞去した。東新宿鮫は出立前に鈴木銀一郎と話したことを思い出し、道翹にいろいろ尋ねてみることにした。

 「鈴木銀一郎という方が例会に来ておられませんでしたか」

 「下の名前は覚えておりませんが、鈴木さんという、お年を召した方が何回か来られていました」。道翹が答えた。「最近、お見えにならないと思ったら、日本にお帰りのようですね。

 「日本では有名デザイナーです。ゲームの腕前もなかなか」

 「ほう。あの方はゲームデザインもするのですか。それは知りませんでした」。道翹は意外そうな顔をした。おそらく鈴木は、変に有名人扱いされるのを嫌がり、田村にも口止めをしていたのだろう。それは分からぬことではない。

 「プレイヤーとしては貪欲というか、何でもする方でした」。道翹は続けた。「初めてのゲームでもルールを教えてくれと積極的にプレイされてました。でも一番やっていたのはPGGでしたね」

 「ところで、ぽたーじゅという名のウサギは例会に来ていますか」。

 道翹は不審そうに東新宿鮫の顔を見た。「よくご存じですね。だいたい例会になると出入りしてます。今日の例会にも、もう一匹のウサギのすーぷと一緒に来ていました。ご用があるなら呼び寄せましょう」

 「ははあ。すーぷも来ていましたか。それは願ってもないことです。ご紹介いただければ幸いです」

 「承知いたしました」と言って、道翹は席を立ち、勘定を済ませると例会場に向かって歩き出した。東新宿鮫が背後から問うた。「ぽたーじゅはいつごろから姿をみせるようになりましたか」

 「そんなに昔の話ではありません。あれは鈴木さんが拾ってきたウサギなんですよ。何でも近くの松林に捨てられていたとか」

 「ほう。例会ではどんなゲームをしているんですか」

 「拾われてしばらくは、他のプレイヤーのゲームを見ていたようです。そのうちにPGGのルールを覚えて、鈴木さんともプレイするようになっていました」。

 「とは言え、しょせんはウサギですよ」と道翹は続けた。「自分ではゲームを持っていないので、他のメンバーのを借りたりしてね。鈴木さんが置いていったいくつかのゲームは自分のねぐらに隠しているようです」

 鈴木がいなくなってからはエサをあげる人もなく、メンバーが新しく買ったゲームのユニットを切って整理する手伝いをしたりして、くず野菜にありついているという。東新宿鮫は同情しつつも、ウサギがそこまでウォーゲームが好きになる理由は何なのだろうと不思議に思った。

 「はあ」と言って、東新宿鮫は二足三足歩いてからさらに問うた。「すーぷというのはどんなウサギですか」

 「すーぷは昔からいるウサギで、西の方の石窟に住んでいるようです。元は誰かに飼われていたのでしょう。今は、ぽたーじゅからエサを回してもらっているので、ゲームの対戦相手をしているみたいです」

 「2匹のゲームの力量はどんなもんでしょうか」

 「まあウサギですからね。知れてますよ」。道翹は苦笑した。「とは言え、我々と違って仕事を持っているわけではないのでね。エサにありつけば、残りの時間は作戦研究に当てられるとあって、そこそこの腕前のようです。それから、エサをよくくれる人にはわざと負けるぐらいの処世術はわきまえているようです」

 「ははあ」と東新宿鮫は感心しつつ聞いた。「PGG以外もやるんですか」

 「最近はウクライナ43やパスグロをやっていますね。鈴木さんがいなくなってからは、まったく他人とプレイしないわけではないですが、2匹だけでプレイしていることが多いような気がします」

 「なるほど」と言って、東新宿鮫はついて行く。ウクライナ43やパスグロも名作という噂は聞いているが、まだプレイしたことはない。歩きながら心のうちでは、そんなことをしているぽたーじゅ、すーぷが文殊、普賢なら、鈴木銀一郎は何なのだろうなどと、思い惑っていた。

   ――――――――――――

 「はなはだむさくるしい所で」と言いつつ、道翹は会場となっているビルの一室に東新宿鮫を連れ込んだ。

 十数人の男たちが様々なゲームをプレイしていて、室内に熱気がこもっている。ダイスを振る音や、歓声、叫び声が交錯する。ゲームをせずに雑談にふけっている者もあり、日本のゲーム会とそんなに変わらないように見える。

 道翹が奧の方へ向いて、「おい、ぽたーじゅ」と呼びかけた。

 東新宿鮫がその視線をたどって、入口から一番遠い席を見ると、2匹のウサギがテーブルを挟んで対面しているのが見えた。2匹とも真っ白な毛並みのウサギだ。

 すーぷとぽたーじゅはウクライナ43をやっていた。道翹が呼びかけたとき、1匹は振り向いてにやりと笑ったが、返事はしなかった。これがぽたーじゅだと見える。もう1匹はユニットの移動に夢中で顔を上げもしない。これが、すーぷなのであろう。

 ぽたーじゅは自分の手番でないためか、パスグロのルールブックを読んでいた。ドイツ軍を担当しているすーぷは、ハリコフ西方で懸命に戦線を張っていた。

 東新宿鮫は2匹のテーブルそばに進み寄った。2匹は特に気にせず、プレイを続けている。東新宿鮫もしばらく見ていたが、何か話しかけた方がよいかと思い、「史実より戦線が進んでますかね」「ドイツ軍の方が装甲師団の運用が難しいのではないですか」などと言ってみた。

 2匹とも、東新宿鮫を無視してはいないものの、「ええ。まあ」とか適当な生返事を繰り返すだけだった。何だこのウサギは、と反感を抱きつつも、新参者の自分がきちんとあいさつしないのは、鈴木がウォーゲーム界の文殊・普賢というウサギに失礼かもしれないと思った。

 そこで東新宿鮫は深々と頭を下げ、「日本から来た東新宿鮫と申すものです。ウクライナ43も名作と聞いているので、いつかはプレイしたいと思っております。ええパスグロもやってみたいですね。対戦いただければ幸いです」とあいさつした。

 2匹は同時に東新宿鮫を見た。それから2匹で顔を見合わせて腹の底からこみ上げて来るような笑い声を出したかと思うと、一緒に会場から駆け出た。逃げしなにぽたーじゅが「銀ちゃんがしゃべったな」と言ったのが聞えた。

 驚いてあとを見送っている東新宿鮫の周囲には、台湾のゲーマーが、ぞろぞろと来てたかった。道翹は真っ青な顔をして立ちすくんでいた。

   ――――――――――――

 「お兄ちゃん。これはひどいんじゃない。色々な意味で」

 ワハハ。まあそうかもね。

 「元ネタが分からない人にはまったく分からないし、元ネタを知っている人でもゲームに置き換えて分かる人は少ないと思うわね」

 そうだろうね。変な話だけど、それを狙って書いているんだから、それでいいんだよ。だからウォーゲーマーじゃない人は納得しないだろうし、ウォーゲーマーであればなおさら納得しないだろう。

 「もっと丁寧な説明が必要なんでは」

 どうかな。これ以上言葉をつくしても、分からない人は分からないんじゃないかな。逆に、分かる人は前回だけ読んで俺の意図は分かっていると思うよ。

 「こんなことばかりやっているから、ウォーゲームが世の人に全然理解されないんじゃないの」

 何て言うのかな。ウォーゲームの魅力を分かりやすく説明するのって、難しいんだよ。適当に説明すればウソになるし、説明しないのもまたウォーゲームには魅力がないと、別のウソをつくことになるからね。あ、勘違いしてもらいなくないけど、別に俺はウォーゲームを世の中に広めようとしてこんなことを書いているんじゃないよ。

 「じゃあ、何のためよ」

 人生は思ったより短いから、ウォーゲーマーにはできるだけ無駄なことに労力を費やさずに生きてもらいたい。そのことを分かってもらいたい、ということに尽きるね。気付いたら何ら得るところなくゲーマー人生が終わっていたということにならないように。まあ、人生ってそういうもんかもしれんが。

 「ゲーマーとして道を極めてほしいということ?」

 そんなことは一言も言っていないよ。道を極める必要があるかないか、なんて学級会レベル以下の議論こそ、俺がもっともしてほしくないことだ。

 「だいたい、文殊や普賢ってところが分かりにくいのよ」

 あれ?そこはわざと親切に、文殊や普賢という言葉を元ネタから変えてないんだけどな。漠然と「知恵をつかさどる偉い仏様」でいいんじゃない。「菩薩」って正確には仏様じゃないのかな。まあ宗教的な正しい定義は私も分からないけど、その程度の認識で十分この小説の意図は理解できるはずだ。

 「ふーん。ぽたーじゅ君やすーぷ君が文殊や普賢だとしたら、ウォーゲームの世界には大勢、文殊や普賢がいらっしゃるわけね」

 ウヒャヒャヒャ。ちょっと勘違いしているけど、外部者である勝代からそういう指摘があるのは、なかなか面白いね。じゃあ最後も、パクリのセリフで締めさせてもらうよ。

 「何よ」

 実はお兄ちゃんも文殊なのだが、まだ誰も拝みに来ないのだよ。
posted by 鮫形鐘一郎 at 01:00| (カテゴリなし) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。