2009年06月15日

鮫形鐘一郎の「訳文教室」第3回

 この年齢になってようやく気付いたことがあるんだよ、ぽたーじゅ君。これを見てくれ。

 「ああ、積読状態だったウルトラセブンシリーズのDVDですね」

 最近、ちょっと時間があったんで、好きなエピソードだけ見ようと思ってね。

 「鮫形さんが好きなのは何星人ですか」

 メトロン星人とペロリンガ星人だね。断然。

 「渋いとこ突きますね。しかも両方とも同じ監督」

 そうなんだよ!いずれも故・実相寺昭雄監督が撮ってるんだよ!偶然気付いてびっくりしたね。それで、DVDの箱裏を見て確認したら、実相寺作品は怪獣が出てこない「第四惑星の悪夢」も入れて3つだけなんだよ。

 「つまり、言いたいことは・・・」

 私は実相寺昭雄ファンだったんだよ!いやー、何で子供のころからこの2星人が好きなのかようやく分かった気がする。

 「鮫形さんが昔から趣味が変わっているのは分かりました。でも実相寺作品と言えば、欠番になった某星人の話もそうですね」

 え、そうなの?君はウサギのくせに昔の特撮ものに詳しいね。

 「鮫形さんが仕事をしてるときにDVDやら蔵書を勝手に見てるだけでして・・・ところで、この前振りだと、今回はウォーゲームのデザイナー論ですか」

 一瞬そう思ったんだけどね。でも、特にネタを思いつかなかったので恒例の訳文教室をやるよ。

 「なーんだ。ただの雑談でしたね。で、今回のテーマは」

 プレイ気分を盛り上げるためのルールブック序文の訳し方をやろう。

 「あのー、一番訳さなくてもいい部分なんでは。よく(略)とかになってませんか」

 ま、そうなんだけどね。いろいろ細かいコツが分かると思ってさ。鮫形流の意訳とか、外国の人名・地名表記とかね。

 というわけで名作パスグロの序文から。第一次世界大戦に欧州諸国が雪崩れ込む場面だ。

1.0 Introduction
On June 28, 1914, Archduke Franz Ferdinand, heir to the
Habsburg crowns of Austria and Hungary, was assassinated by
Serb nationalists in Sarajevo, then the capital of Austrian controlled
Bosnia-Herzogovina.

1.0 はじめに
 1914年6月28日。当時オーストリア・ハンガリーの支配下にあったボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボで、ハプスブルク家の皇太子フランツ・フェルディナント大公が、セルビア人民族主義者に銃で撃たれ暗殺された。

※(鮫形注)外国語の日本語表記に完全な正解はない。私はできるだけ原音に忠実にしつつも平易で、聞き慣れた言葉にすべきだと思っている。「サライェヴォ」と書くのは何か気持ち悪い。「フェルディナント」の最後はドイツ語発音で濁らない方が良いと思う。趣味の問題だが、自分の中では一貫性を保たないといけない。国名は「オーストリア・ハンガリー帝国」「セルビア王国」としてもいいが、これも平易さ重視で省略した。あえて原文にない「銃で撃たれ」と書き込んだのは後で説明する。皇太子でなく「皇位継承者」が厳密との説もあるが、これも皇太子が一般的なのでそれに従った。

The murder of Franz Ferdinand provided
an excuse for the Austrian Army’s chief of staff, Conrad
von Hotzendorff, to “settle accounts” with the upstart Serbs, and
on July 23 Austria presented Serbia with an ultimatum with a
48-hour time limit.

 皇太子暗殺はオーストリアのコンラート・フォン・ヘッツェンドルフ陸軍参謀総長に格好の口実を与えた。独立したばかりのセルビアに「落とし前を付けさせる」ため、オーストリアは6月23日、10カ条からなる最後通牒を突き付け48時間以内の回答を求めた。

※(鮫形注)「参謀総長のコンラート」としてもいいが、人物は基本的に肩書き呼称に。宣戦布告でなく最後通牒なので「10か条」を入れておいた。事実上の宣戦だが、回答を100%のめば戦争を回避できるので。このときもセルビアは8か条は同意する意思があった。

The Serbs appealed to their traditional protector,
Russia, for help.

 セルビアは汎スラブ主義の盟主ロシアに救いの手を求めた。

※(鮫形注)traditional protectorを史実に即した表現に変えた。「汎スラブ主義陣営」の方がいいかも。

When Russia mobilized, Germany,
Austria’s ally, declared war on Russia on August 1.

 ロシアが動員を開始すると、オーストリアの同盟国であるドイツは8月1日、ロシアに宣戦布告した。

Having no
plans for a war against Russia alone, Germany soon declared
war on Russia’s ally, France, and demanded that the neutral Belgian
government allow German troops passage through Belgium
in order to execute the infamous Schlieffen Plan.

 ロシアとの単独戦争を想定していなかったドイツは、間を置かずロシアの同盟国のフランスにも宣戦。悪名高いシュリーフェンプランを実行に移すため、中立国のベルギー政府にドイツ軍部隊の通行許可を要請した。

This demand
was refused, and the invasion of Belgium brought Britain into
the war against Germany on August 4.

 この要求は拒絶され、ドイツはベルギーに侵攻。対抗してイギリスも8月4日、ドイツに宣戦布告した。

In little more than a month,
the murder at Sarejevo had led to the First World War.

 わずか1カ月余りで、サラエボの一発の銃弾が第一次世界大戦を引き起こしたのだ。

 「サラエボでの暗殺が第一次世界大戦につながった」と書くより、「銃弾」という小さなものから「世界大戦」というコントラストを付けたかったんだよね。原作の改ざんと批判を受けるかもしれないが、これが鮫形流だ。

 「ははあ。夏目漱石がI love youを『月がきれいですね』と訳したのに通じますね」

 うーん。ちょっと違うような気もするけど。そのまま訳しただけでは気分が盛り上がらないということだよ。盛り上げるマインドがないなら(略)だね。

 次は「積み木のバルジ」の特別ルールの方に行ってみよう。

11.0 Introduction
Once more, we find ourselves in the Ardennes Forest in the
month of December, 1944.

 11.0はじめに

 気付いたら、われわれはまた1944年12月のアルデンヌの森に立っていた。

How many times have the veteran
wargamers among us fought this particular battle over a game
board?

 仲間のベテランウォーゲーマーたちが、何度この特別な戦闘を盤上で戦ってきただろうか。

Yet for many of us, we keep coming back to that dark
and cold, heavily wooded battlefield.

 それでもわれわれの多くは、この暗く冷たい、深い木々に覆われた戦場を訪ね続けている。

It was an epic battle of
desperation, for the Germans it was desperation from a
strategic standpoint, and for the Americans it was desperation
from an operational standpoint.

 バルジの戦いは両軍にとって望みの薄い、最後の悪あがきとも言える戦闘だった。ドイツ軍にとっては戦略的見地から悪あがきの戦いであり、アメリカ軍にとっては作戦的見地から悪あがきの戦いだった。

※(鮫形注)desperationは「絶望的」「破れかぶれ」という一般的訳語もあるが、チェス用語では、劣勢な側が多少無謀でも最後に頑張って反撃することを指す。苦し紛れの手段。「悪あがき」としてみたが、もっと気の利いた言葉があるかも。

The soldiers of both sides
fought hard, because to them the end was not yet decided.

 それでも前線の両軍兵士は激しく戦った。なぜなら、彼らはこれが最後の戦いだと決められなかったからだ。

※(鮫形注)ドイツの敗北が決定的となった中で、ドイツは勝ってもあまり意味のない、しかも勝つ可能性の高くない賭けに出た。アメリカ軍も、ここで無理に出血して踏みとどまらなくても戦争に負けることはなかった。そういうバルジの戦いの特徴を冷静に分析しつつも、そこに意義を見出そうとするバルジファンの気持ちが伝わってくる。

To the new player of historical simulations, welcome to an
exciting and challenging gaming experience, where as the
Commander in the Field you will try to better the historical
result of your Armies.

 歴史シミュレーションゲームを初めてプレイする方へ。知的な興奮と挑戦を体験できる世界へようこそ。この戦場の指揮官として、史実以上の善戦を目指すのがあなたの任務だ。

※(鮫形注)そして思い出したように初心者に向けた言葉(笑)。

Historical simulations are at their
absolute best when you use them as “Paper Time Machines”
(Redmond A. Simonsen . R.I.P.).

 優れたシミュレーションゲームはこう呼ばれることもある。「紙製のタイムマシン」(故レドモンド・A・サイモンセン氏の言葉。氏のご冥福を心からお祈りいたします)

※(鮫形注)「タイムマシン」を最後に出すためやや原文から変えた。一瞬初心者に顔を向けたかと思ったら、最後は初心者の知らないサイモンセンを追悼するのもベテランウォーゲーマーの性が出てていいね。

 こんな感じかな。細かいところで文句がある方も多いだろうがご容赦を。「気付いたらまた暗い森に立っていた」という部分が、ウォーゲーマーの業、特にバルジ好きゲーマーの業を感じさせていいよね。「またバルジゲームをつくっちまった」というところね。

*****

 「ところで鮫形さん。セブンじゃなくてウルトラマンの方で好きな怪獣は?」

 ジャミラとシーボーズだね・・・え?ひょっとして?

 「いずれも実相寺作品ですよ」

 何と!やはり監督は重要だねえ。私はウルトラシリーズが好きなんじゃなくて、実相寺監督が好きだったのかなあ。

 「ですから次は是非ともウォーゲームのデザイナー論をやってくださいよ」

 あれ?ウルトラマンのDVDの箱を見たら、スカイドンやガヴァドンも実相寺作品だよ!これも好きなんだよなあ

 「全然僕の話を聞いてないですね」

 ああウォーゲームのデザイナー論ね。考えておくよ。ところで、ウルトラマンの各エピソードのタイトルは短くてパンチが効いているよね。ウォーゲームの新作も「ドライブ・オン」とか「激闘」とかマンネリ表現をやめて見習うべきだと思うね。

 「例えばどんなんですか」

 独ソ戦なら「侵略者を撃て」。ノルマンディーなら「来たのは誰だ」とかね。どっちかというとリプレイ記事の見出しっぽいかな。

 「バルタン星人とケロニア!相変わらずパクリばっかりですよ!」
posted by 鮫形鐘一郎 at 01:00| (カテゴリなし) | 更新情報をチェックする
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